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硝子戸の中(夏目 漱石) | 2016-01 | 読書メモ


硝子戸の中
(夏目 漱石、新潮文庫、1952-07)
読書時期:2015年12月
評価:○



気になったポイントのメモ。


(一) *冒頭部分
 硝子戸の中から外を見渡すと、霜除をした芭蕉だの、赤い実の結った梅もどきだの、無遠慮に直立した電信柱だのがすぐ眼に着くが、その他にこれと云って数え立てる程のものは殆んど視線に入って来ない。書斎にいる私の眼界は極めて単調でそうして又極めて狭いのである。

(中略)

(三十九) *結末部分
 軽い風が時々鉢植の九花蘭の長い葉を動かしにきた。庭木の中で鶯が折々下手な囀りを聴かせた。毎日硝子戸の中に座っていた私は、まだ冬だ冬だと思っているうちに、春は何時しか私の心を蕩揺し始めたのである。
 私の瞑想は何時まで座っていても結晶しなかった。筆をとって書こうとすれば、書く種は無尽蔵にあるような心持ちもするし、あれにしようか、これにしようかと迷い出せば、もう何を書いてもつまらないのだという呑気な考も起ってきた。
(中略)
 私は硝子戸を開け放って、静かな春の光に包まれながら、うっとりとこの稿を書き終るのである。そうした後で、私は一寸肘を曲げて、この縁側に一眠り眠る積である。

1915年1月から2月の約1ヶ月ほど、朝日新聞に掲載されたエッセイ的な文章。
体調の問題もあり、寒い冬の間「硝子戸の中」の書斎に閉じこもり、思考がいろいろと飛んでいき、それを文章として紡いでいく。
夏目漱石が亡くなるのは1916年だから、1年前に書かれた文章。そういえば、今年、2016年は没後100年目にあたる。
この描写力のある文章はなんだろう。現代かなに直されているとはいえ、現代でもきちんと読める文章。


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